生成AIを導入すれば仕事が速くなり、残業が減り、社員は早く帰れる——。そんな期待とは少し違う現象が、AI活用を積極的に進める企業で起き始めている。

DeNAではAIによって一部業務の工数を6〜9割削減する成果を上げている。しかし、そこで生まれた時間がそのまま「余暇」になるわけではなかった。社員は空いた時間に別の仕事を入れ、結果として仕事そのものはなかなか減らないという。

2026年9月18日、ITmedia NEWSが「経営『AIでラクして早く帰って』→社員『帰らない』 工数最大9割減のDeNAも悩むAI効率化の壁」と題して、この問題を取り上げた。 (ITmedia)

DeNAが掲げた「AIオールイン」

DeNAは2025年から「AIオールイン」を掲げ、全社的なAI活用を急速に進めてきた。

その構想はかなり大胆だ。現在約3000人で行っている既存事業を、AIを活用することで将来的には半分程度の人員でも成長させられる体制へ変え、残った人材をAIを核とした新規事業へ振り向けるというものだ。 (DeNA Engineering)

実際、AI導入の効果は出ている。

ITmedia NEWSによると、法務部門におけるツール利用規約のチェックでは約9割、ライブコミュニティサービス「Pococha」の配信審査では約6割の工数削減を実現したという。 (ITmedia)

さらにDeNAは2026年3月、自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin」のエンタープライズ版を全社規模で導入。AIを単なるチャットツールではなく、実際に作業を進める「AIエージェント」として利用する環境も整備している。 (DeNA)

ここまで見ると、「AIによって社員の仕事が減り、余裕が生まれた」と考えたくなる。

ところが現実は、そう単純ではなかった。

「楽になった分、自ら仕事を詰め込む」

2026年3月に開催された「DeNA × AI Day 2026」で、DeNAの南場智子会長はAI導入後に起きた意外な現象について語っている。

AIによって同じ作業に必要な工数が減っても、社員はそこで仕事を終わらせるのではなく、それまで時間がなくてできなかった仕事を自ら追加していったという。その結果、当初想定していたほど新規事業への人材シフトが進んでいない。 (フルスイング – DeNA)

つまり、

「8時間かかっていた仕事が4時間になったから、4時間早く帰る」

のではなく、

「8時間で1件だった仕事が、8時間で2件できるようになる」

という方向へ進んでしまう。

企業から見れば生産性向上だが、働く人から見れば「仕事が楽になった」という感覚にはなりにくい。

AIで浮いた時間の6割は再び仕事へ

これはDeNAだけの問題ではない。

パーソル総合研究所が2026年に発表した「生成AIとはたらき方に関する実態調査」では、生成AIを利用したタスクの所要時間は平均16.7%短縮されていた。

一方、実際に「業務時間が減った」という人は生成AI利用者の25.4%にとどまった。

さらに興味深いのが、AIによって削減できた時間の使い道だ。浮いた時間の61.2%が再び仕事に使われ、その仕事の75.4%を「日常の業務」が占めていた。 (パーソル総合研究所)

AIで30分浮いたら30分早く帰るのではなく、その30分でメールを処理したり、資料を追加したり、別の案件を進めたりする。

結果として「1つの仕事は速くなったが、仕事全体は減っていない」という状態が生まれる。

AI導入だけでは「働き方」は変わらない

この問題が示しているのは、AIによる「タスクの効率化」と「組織全体の効率化」は別物だということだ。

文章作成を2時間から30分に短縮することは、生成AIだけでも比較的実現しやすい。しかし、それによって生まれた90分をどう扱うのかは、AIではなく企業側の問題になる。

別の仕事を入れるのか。新規事業へ振り向けるのか。労働時間を短縮するのか。教育や研究の時間にするのか。

ここまで設計しなければ、AIによる効率化は単に「同じ8時間に入る仕事の量を増やす」だけになりかねない。

DeNAもこの問題に気付き、南場会長は「人を先に動かす」という考え方を示している。AIによって十分に効率化されるまで待ってから人員を移すのではなく、先に既存業務から人を外し、新規事業などへ配置することで、残った組織がAIを前提とした業務プロセスを作らざるを得ない状態にするという発想だ。 (フルスイング – DeNA)

AI時代の課題は「何をやめるか」

これまで企業のAI導入では、「AIで何ができるのか」「何時間削減できたのか」が重要な指標になってきた。

しかし次の段階では、「AIによって何の仕事をやめたのか」「浮いた人材や時間をどこへ移したのか」という視点が重要になりそうだ。

AIがメール、資料作成、調査、プログラミング、データ分析などを高速化すればするほど、人間が処理できる仕事の量は増えていく。

だからこそ、AI時代の本当の業務改革は「もっと仕事をすること」ではなく、「やらなくていい仕事を決めること」なのかもしれない。

DeNAで起きている現象は、AI導入に失敗した例ではない。むしろ大幅な効率化に成功したからこそ、その次にある「人間と組織をどう変えるのか」という課題が見えてきたケースといえる。

AIが仕事を速くする技術であることは、すでに多くの現場で実証されつつある。

次に問われるのは、AIによって生まれた時間を企業と働く人がどう使うのか、ということになりそうだ。

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ITmedia NEWS「経営『AIでラクして早く帰って』→社員『帰らない』 工数最大9割減のDeNAも悩むAI効率化の壁」
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By tokita