AIエージェントの実用化が進む中で、「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」だけでは限界があるという議論が活発になっている。その中で注目を集めているのが、AWS Japanの技術記事「Context Ontology Accelerator」と、Knowledge Graph Communityが公開した「Define First vs Induce」という2本の記事だ。

両記事は異なる視点から書かれているが、共通しているのは「AIが理解できる世界モデル(Ontology)をどう設計するか」が今後のAIシステムの競争力になるという点だ。

RAGだけでは難しくなってきたAI

近年、多くの生成AIシステムはRAGを採用している。

これは

  • ベクトル検索
  • 関連文章を取得
  • LLMへ渡す

という流れで回答を生成する方式であり、多くの業務システムで利用されている。

しかし、この方式には弱点もある。

例えば

「○○会社で働く山田さんが担当している案件で、取引先企業の親会社が最近買収された影響は?」

のような質問では、

  • 人物
  • 組織
  • 親会社
  • 買収イベント
  • 案件

など複数の関係性をまたいで推論する必要がある。

単なる文章検索だけでは、このような「意味のつながり」を扱うことが難しい。

そこで再び注目されているのが**Knowledge Graph(知識グラフ)であり、その設計図となるOntology(オントロジー)**である。オントロジーは「どのような概念が存在し、それらがどのような関係を持つか」を定義するスキーマであり、知識グラフはその定義に沿って実データを格納したものだ。(Semantic)

AWSが公開したContext Ontology Accelerator

AWS Japanの記事では、「Context Ontology Accelerator」というオープンソースプロジェクトを紹介している。

これは

  • オントロジー設計
  • Knowledge Graph構築
  • AI Agent向けコンテキスト管理

を始めやすくするためのテンプレート・ツール群である。

AIエージェントは単なるチャットではなく、

  • ユーザー
  • タスク
  • 組織
  • 文書
  • 会話履歴
  • 外部システム

など様々な情報を理解し続けなければならない。

そのためには

「これは人なのか」
「これはプロジェクトなのか」
「これは会社なのか」

という意味付けが重要になる。

Context Ontology Acceleratorは、この意味付けを最初から構造化して設計できるよう支援することを目的としている。

「Define First」と「Induce」の違い

もう一つの記事では、オントロジー設計には大きく2つの考え方があると説明している。

Define First

こちらは従来型の方法。

最初に

  • エンティティ
  • 属性
  • リレーション

を人間が設計してからデータを投入する。

メリットは

  • 一貫性が高い
  • 品質管理しやすい
  • 大規模運用に向く

一方で

最初の設計コストが非常に高い。

設計ミスがあると後から修正が大変になる。

Induce

一方はこちら。

まず大量データを投入し、

LLMや機械学習によって

  • 概念
  • 関係性
  • クラス

を自動抽出する。

つまり

「データからオントロジーを育てる」

という考え方である。

こちらは開発スピードが非常に速い。

ただし、

  • ノイズ
  • 重複
  • 命名ゆれ

が発生しやすく、人間によるレビューや統合が欠かせない。こうした「オントロジー誘導(Ontology Induction)」は研究分野としても活発であり、LLMを活用してスキーマを生成・改善する手法が増えている。(arXiv)

AIエージェント時代はハイブリッド設計へ

興味深いのは、

どちらの記事も

「どちらか一方が正解」

とは言っていないことである。

実際には

まずDefine Firstで最低限の骨格を作る。

その後、

AIにInduceさせ、

不足する概念を追加していく。

というハイブリッド方式が現実的だとしている。

これは現在のAI Agent開発でもよく採用され始めている設計思想である。

なぜ2026年になって再注目されたのか

Knowledge Graph自体は新しい技術ではない。

Google検索や企業データ管理でも10年以上利用されている。

しかし近年はLLMが登場したことで事情が変わった。

LLMは

  • 自然言語理解

は非常に得意だが、

  • 長期記憶
  • 正確な関係性
  • 一貫した世界モデル

を持つことは苦手である。

そこで

Knowledge Graphを

「AIの外部記憶」

として利用する流れが急速に広がっている。

最近では

  • Agent Memory
  • Context Graph
  • Enterprise Knowledge Graph

など様々な呼び方がされているが、

本質的には

「意味を持つデータ構造」

を作るという考え方は共通している。(Neo4j Graph Intelligence Platform)

AWSが狙う次世代AI基盤

AWSはこれまでも

  • Bedrock
  • Neptune
  • OpenSearch
  • Aurora

などAI基盤を拡充してきた。

今回のContext Ontology Acceleratorは、

それらを単なるデータ保存先ではなく、

AIエージェントが理解できる「意味のあるコンテキスト基盤」へ進化させるための取り組みと言える。

単なるRAGから

「意味を理解するAI」

への進化を支える重要なピースとして、今後さらに注目を集めそうだ。

まとめ

生成AIの普及によって、「どれだけ多くのデータを持つか」よりも、「そのデータをAIがどう理解できる形で整理するか」が重要になってきた。

AWSのContext Ontology Acceleratorは、そのための実践的な出発点を提供するプロジェクトであり、一方で「Define First vs Induce」は、オントロジー設計そのものの考え方を整理した内容となっている。

AIエージェントが複雑な業務を担う時代には、ベクトル検索だけではなく、知識グラフやオントロジーを組み合わせた「意味を持つコンテキスト管理」が標準的なアーキテクチャになる可能性が高い。AIシステム開発者にとっては、今後押さえておきたい重要なテーマの一つと言えるだろう。

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By tokita